五術

測字のお話(1)

その1

徳川家康の祖父は、徳川清康といった。その清康が、まだ三河の小領主だった頃、
あるとき、清康が夢をみた。手のひらに「是」という文字をしっかり握りしめた
夢であった。
「この夢は、どういう意味をあらわすのか?」と、おかかえの占い師に問うた処、
占い師は、驚き、「これこそ、まさしく当家より、天下をとるお方が出る瑞兆で
あります。
「是」という文字を分析しますと、日下人となります。日はすなわち、天下をあ
らわします。天下の人ということでございます」と、答えた。清康は、非常に喜
んで、褒美を与えた。
夢は正夢となって、孫の家康が天下をとり、徳川時代築いたわけである。

 

その2
ある辻占いのところに、娘が来た。奉公娘の姿ですが、どこか気品があり、事情
がある様子。
「私は、実は塩問屋の一人娘なのです。奉公人の一人に惚れてしまい、恥をしの
んでご相談に来たのです。その奉公人も私のことを嫌っているようではないので
すが、やはり奉公人、向こうから話し出すこともできないのでしょう。
私から話して、駆け落ちしようかとも思いましたが、一人娘、百年つづいた店を
潰すことになってしまいます。どうしたらよいものか…」
占い師は、その娘に漢字を一字書いてもらいました。娘は「天」と書きました。
「あなた達ふたりは、まだ結ばれていませんね。でも、相手もけっしてあなたの
ことが気にそまないわけではありませんよ。事情が事情ですし、誰か間にたって
もらって、話をすすめれば、まとまると思います。そうですね。三月後、未の月
ころにはまとまるでしょう。」
「なぜ、そんなことがわかるのですか」と問いました。
「天という字は、これを分解すると、二人になります。二人が一つになっている
のですから、二人の気持ちは一致しているということです。ただ、まだこの字は
夫という字になっていませんから、二人は夫婦の関係ではないとみました。
仲介者をたてれば、「未」になります。未の月の頃にはまとまると判断したのです」